ローカル線の回顧録

1970年代後半から2000年頃までのローカル線の記録

第743話 1994年土佐:いにしえのLRT(その7)

今回も引き続き土佐電の輸入中古車の話題です。

土佐電では、8車種の外国の路面電車を譲受しましたが、そのうち竣工したのは5車種でした。第742話では1994年当時の735形と320形についてお伝えしましたが、今回は残りの3車種です。

 

1.910 (桟橋車庫:1994年8月)

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 まずは、910形です。この車両はポルトガルの元リスボン市電です。改造に一番手間が掛かった車両で、この年の3月に竣工したばかりでした。いきなり車体側面の写真ですが、これはポルトガルのビールの広告で、輸入時のまま再現したそうですが、国内の広告車と違ってかなりセンスが良いです。

 

2.910 (桟橋車庫:1994年8月)

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 ところで、この910は、改造に大変手間が掛かった車両でした。なぜなら、この大きさで木造車だったからです。さすがに輸入車と言えども、木造車が認可されるわけがなく、仕方なく車体は鋼体化され新製です。

 

3.910 (桟橋車庫:1994年8月)

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 鋼体化によって、オリジナルからスタイルが少々変わってしまい、全く古さを感じませんが、デザイン的にも完璧な広告電車です。国内の広告電車もこうありたいですね。

 

4.910 (桟橋車庫:1994年8月)

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 910形(注1)は譲受当時は木造構体以外にもポール集電であったり、ゲージが914㎜であったり、片運車であったりの厄介者でした。よって竣工まで時間が掛かってしまったわけです。両運化されパンタを載せて、台車も西鉄北方線のボギー台車に交換し、もしかして新しく造った方が安上がりではなかったのでは?

(注1)910形の車歴

・土佐910←リスボン市910:1947年CCFL製

 

5.533 (桟橋車庫:1994年8月)

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 そしてもう1両、この可愛い533(注2)も元リスボン市電です。海外電車の第2弾として1991年に竣工しましたが、この電車も木造車だったので車体を新製鋼体化し、両運化、改軌、オープンデッキの安全対策等を施した厄介な車両でした。恐らくこの車両の実績をみて910の改造に踏み切ったものと思われます。この電車はリスボンでは現在も観光資源として路線ごと残されており、走る電車もこれと全く同じスタイルですが、臓物は新品に交換されてまだまだ使われるようです。しかし、この533は2008年に引退して、この広告のスポンサーであった世界的に有名なコーラの愛媛県の工場で保存されました。

(注2)533の車歴

・土佐533←リスボン市533:1928年CCFL製

この電車を初めて見た時に、こんな電車が走っているリスボンに憧れましたが、奇遇にもこの5年後に仕事の関係でリスボンへ行く機会に恵まれ、本家をしっかり見てきました。その時の様子はいずれ報告します。

ところで、余談ですが、この533の後ろに隠れている装飾だらけの車両が気になります。こんなに詰めて留置されていたので写真も撮れませんでしたが、その車両は貨物電車の1号です。1952年に貨物電車の17号を自社にて更新して製造されたもので、好ましい4輪単車です。通常は保線用に使用されているそうですが、この時は「よさこい祭り」の花電車として装飾されていました。

 

6.198 (桟橋車庫:1994年8月)

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 最後はグロテスクな198(注4)です。この車両は1992年に竣工したノルウェーの元オスロ市電198です。この車両もオリジナルは片方向運転車だったので、前後のスタイルが少し違っています。この写真は正規の前面です。簡易運転台だった反対側はもっと傾斜のある「なまず」の様な流線形ですが、この電車はオスロでは「金魚電車」と呼ばれていたそうです。反対側の顔は残念なことに、陽の向きが悪く写真がありません。ところでこの車両は幅がデカく、土佐電導入時に車体幅を狭くすることになりましたが、外板がアルミ板貼りの車両でした。よって外板を一旦はがして構体の幅を詰める大手術を行っています。しかしながら、この電車は日本で言うところの戦前製に相当しますが、まさかのアルミ車だったとは驚きです。

 

7.198 (桟橋車庫:1994年8月)

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 (注4)198形の車歴

・土佐198←オスロ市198:1939年ストレンメン製

この電車は譲受した際は、保線用の車両だったそうで、同型車が3両しかなかったものを日本に持ってきたそうです。

 

さて、初めて訪問した土佐電の1994年時点の車両の様子はここで一段落です。このあと走行撮影に出ましたが、その様子は別途お伝えします。

これまでは広電くらいしか路面電車のことを知りませんでしたが、いろんな車両を知ると結構奥が深いです。私はローカル私鉄の古い車両ばかりを追い掛けていましたが、この頃になると、古い車両は減ってしまい、趣味の範囲が急激に狭まってしまいました。よって、この先は路面電車や初期のカルダン車の話題が増えて行きます。