今回はいわゆる一般鉄道ではなく、動力車が存在しないナローの産業用トロッコの話題です。
今から40年程前に、秩父地方の地形図を見ていた時に、秩父鉄道の武州中川駅から直線に延びる軌道のような標記が記載されていることに気づきました。これは誤記なのか?。それとも専用線の軌道なのか?。当時私は広島に住んでいたので、簡単に現地を訪問することも出来ず、非常に気になっていました。
1.現地概要(引用:国土地理院1/25000地形図「秩父」昭和56年発行)
ところが、偶然にも私のバイブルである「知られざるナローたち」に、この軌道の記事が出ており、エンドレスロープ(要するにケーブルカー)のトロッコであることがわかりました。それは、三峰石灰産業と言う石灰を生産する会社の専用軌道で、工場と秩父鉄道武州中川駅を結ぶ複線の路線で、全線にわたって片勾配のためエンドレスロープを採用していました。
この軌道を訪問したのは、1986年2月でした。その日は、秩父方面に存在したトロッコを散策するため朝から秩父を目指しました。
秩父鉄道の武州中川で降りると、いきなりこんな光景に出くわしました。
この写真は武州中川駅の貨物ホームです。エンドレスロープの先には手押し軌道が貨物ホームまで延びていました。ここはトロッコから秩父鉄道の貨車に製品を積み替える場所ですが、何もなく閑散としていました。
3.工場方向を望むエンドレスロープ (武州中川:1986年2月)
2月なので、軌道には雪が残っていました。 エンドレスロープなので複線です。路線は508㎜のナローゲージでしたが、機関車はありません。路線長は約700mで、上り勾配が真っすぐに工場へと続きますが、高低差が25mほどあり、平均勾配は40‰です。出荷は下り方向ですが、これでは人力というわけにはいきません。しかし、昔は畜力や、4人がかりで人力だった頃もあったそうです。
4.武州中川駅方向を望むエンドレスロープ (三峰石灰産業:1986年2月)
この写真は工場側から勾配の下の方を見下ろしたものです。軌道の周りは桑畑です。エンドレスロープなので線路の真ん中にはワイヤーロープがあります。
5.木製トロッコ (三峰石灰産業:1986年2月)
工場の入り口にはトロッコのガレージがありました。軌道には除雪した雪が堆積しており、トロッコはしばらく動いていない様でした。
6.工場全景 (三峰石灰産業:1986年2月)
せっかく訪問したのに、この日はトロッコが動いていませんでした。あとから分かったことですが、この時点で、既に軌道は廃止になっていました。国鉄の貨物合理化の煽りで、1984年に製品の出荷がトラック輸送となり、その時点で軌道は使命を終えた様ですが、幸い軌道設備は撤去されずに残っていました。しかし、この翌年には軌道設備は撤去されてしまったとのことで、このあたりの状況は、「鉄道ピクトリアル506号」で秋谷治人さん、堤一郎さんが、この軌道の詳細を執筆されています。
軌道の撮影はギリギリセーフでしたが、やはり現役でエンドレスロープが稼働している状態を見たかったです。
現在、三峰石灰産業はなくなり、エンドレスロープの軌道跡は舗装された車道になっており、昔日の面影は全くありません。
1980年代には、この様な前近代的な輸送手段がまだ各地に残っていましたが、現在でも奥多摩に立派なエンドレスロープが存在しています。