ローカル線の回顧録

1970年代後半から2000年頃までのローカル線の記録

第500話 番外編:NDC考察

令和2年は年の瀬を迎え、コロナ感染は一向に終息の気配が感じられませんが、おかげさまで第500話に到達しました。

今回も節目の番外編ですが、今回は昨今の高級なハイブリッドDCや電気式DCに疑問を感じ、これからの気動車がこれで良いのか?と思いつつ、今一度、ローカル線向けの気動車について考えてみたいと思います。

 こんな硬いテーマを話題にあげる理由は、ローカル線の先行きに不安を感じているからです。単なる「気動車バカ」のぼやきで終わってしまうかも知れませんが、お付き合い願います。

現在、JRも地方鉄道も、非電化路線は経営的に非常に厳しい状況です。このままの成り行き次第では、設備や車両の寿命が路線の終わりになってしまう様にも思われます。今こそローカル線存続について何が出来るのか考えねばなりません。一時期、国の補助が切れて、バタバタとローカル線が倒れて行きました。地方行政や民間だけではどうにもならない状況です。やはり国の補助が必要でしょう。

そして、経費節減です。最近は液体式DCを排除してハイブリッドDCや電気式DC化する動向にありますが、これらの車両は大変高価です。お金のないローカル線には、こんな高級車は買えない現実があります。そして、これらを導入することが果たして経費節減になるのか?

電気式DCのメリットは、電車のメンテと共通化が図れること、整備が厄介なトルコンが排除できること、液体式DCに比較して燃費が良いことなどでしょうか。しかし、電車とのメンテ共通は、JRの様に電車のメンテが主体となる事業体であれば納得できますが、気動車オンリーの路線では意味がありませんし、ハイブリッドだの電気式と言えども発電用のエンジンは存在するわけなので、エンジンのメンテは必要です。また、トルコンですが、これは気動車が減少するなかで、これ以上のモノを望んだところで、メーカーも消極的になるだけで、これ以上どうにもならないと思います。ならば、発想の転換で、液体式を機械式に戻す!。ただし、最近の大型トラックで使用される自動制御のトランスミッションを適用ることは可能と思われ、トラックメーカーと気動車メーカーのコラボが必要ですが、これが実現できれば、総括制御も可能でエンジン性能を変えることなく燃費も向上するはず。イニシャルコスト、ランニングコストともに低減が図れるのではないか。

 まだまだ気動車はすたれたものではありません。環境対策に逆行していると思われるかも知れませんが、今こそ安価な気動車の開発が望まれます。

さて、前置きが長くなりましたが、過去においても40年程前に低廉化を徹底した気動車の開発経緯がありました。それは、当時の気動車メーカーである富士重工と新潟鐵工がそれぞれ製品化した軽快気動車です。

富士重工は同社のバス製造部門とのコラボで、次世代型レールバス(LE-Car)に活路を見出しました。一方、新潟鐵工はコラボを組む相手もおらず、従来の鉄道車両ベースのダウンサイジングで我が道を歩むしかなかった様でした。しかし、同社にはエンジン部門があり、気動車用エンジンの革命とでも言うべき、直噴式エンジンが自給できた強みもあり、とてもお安い気動車を製品化しました。それがNDCです。

今回はその実例として、今は亡き、新潟鐵工が手掛けた軽快気動車(NDC)の変遷について、新潟鐵工のパンフレットを見ながら顧みたいと思います。

 

1.新潟鐵工NDCのPRパンフレット抜粋

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まずは、1984年頃のパンフレットです。これは、国鉄が見切りを付けた赤字転換路線向けに新潟鐵工が開発した低廉化気動車のPR用パンフレットの表紙です。ここでNDCという名称が出て来ます。NDCとは、Niigata Diesel Car の略。描かれた気動車が手描きのパースで時代を感じます。車体デザインも気動車らしからぬ何となく上信電鉄の1000系、6000系の流れをそのまま転用した乏しさが否めません。

 

2.新潟鐵工NDCのPRパンフレット抜粋

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 そして、このパンフレットに見たことある様なパースも描かれています。このパースは時期的に神岡鉄道向けのKM-100.150形用のデザイン案と思われます。しかし、KM-100,150形は直噴式エンジンを採用した以外は、国鉄キハ20系の中古台車や機器類を再使用した新車モドキなので、純粋なNDCとは言えません。

 

3.新潟鐵工NDCのPRパンフレット抜粋

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 パンフレットによれば、上記の4項目がNDCの特徴ですが、もう少し具体的な事例を補足すると、当時NDCの車両価格は5000万円を切る低価格でした。戦略的な価格のようにも思えますが、現在の三セク向け気動車が1億円を下らない価格になっていることと比較すれば如何に低価格であったのか驚きです。ちなみに、ハイブリッドDCや電気式DCだと、更に高額に・・・。

そして、保守費削減、動力費節約、省力化は、直噴式エンジン採用による効果です。しかし、今後エンジンにこれ以上の経済性向上は期待できないと思います。そして注目すべきは、この当時低廉化の話題に上がらなかったトルコンです。理由は当時の気動車はトルコンありきであったことと、エンジンほど汎用性がなく、変更の費用対効果が見込めなかったので、低廉化を諦めていたものと思われます。やはりこれからは、トルコンを何とかしなければ・・・。

 

4.新潟鐵工NDCのPRパンフレット抜粋

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NDCの形式図です。トイレの有無で2パターンが提案されていますが、NDCは中長距離路線を意識したクロスシートが基本でした。屋根にはクーラーが付いています。気になるのが左側の動台車ですが、まだNP-120系列ではなく、コイルバネの偏心台車です。この偏心台車は、岩手開発鉄道キハ201で実績があるNP-110の様ですが、なぜここで先祖帰りするようなことに?これも低廉化の一環なのか?それとも冗談なのか?設計陣の模索状況が目に見えますが、1985年に登場した由利高原鉄道向けYR-1000形でこの偏心台車が蘇りました。少なくとも冗談ではありませんでしたが、その後は続きませんでした。

そして、外観は初期のNDCでお馴染みの非貫通タイプですが、このパンフレットが作成された時点では、まだ実車は存在していません。この外観のNDCは1986年製の南阿蘇鉄道が最初となりますが、実車はドアが引き戸ではなく、低廉化のためなのかバス用の折り戸となり、台車はなぜかDT22でした。空気ばね台車のNP-120の採用はその次の錦川鉄道会津鉄道向けNDCからです。

 

5.新潟鐵工NDCのPRパンフレット抜粋

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パンフレットに掲載された室内写真ですが、緑色の腰掛の車両は、上信電鉄6000形でそれ以外は三陸鉄道の36形のようです。NDCもなんだかんだ低廉化を模索しているうちに、ワンマン機器をはじめ、安価なバス部品が採用されました。

 

6.新潟鐵工NDCのPRパンフレット抜粋

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車両諸元を見ると、注目は車両重量です。それまでの国鉄気動車は20m車のキハ40系など初期の非冷房車でも37t程もあり、当時最新の三陸鉄道の36形(18m車)ですら31~33tです。これが15m車のNDCでは25t程です。車両長が短くなれば、その分軽くなるのは当然ですが、一般に単位メートル当たりの重量は増えるはずです。これを単純計算で比較すると、国鉄キハ40系は1.85t/m、三陸36形は1.72~1.83t/m、NDC15m車は1.67t/mとなり、NDCの軽量化が良くわかります。

NDCは何か付け忘れているのではないかと、心配になる程の軽量化ですが、この頃は有限要素法が構体設計にも適用され始めた頃で、最適設計とダウンサイジングの結果がこの重量です。逆に言えば、国鉄キハ40系がいかに重い車両だったかと言うことです。そして、NDCは車両性能も、軽量化と過給機付き直噴式機関の採用で電車に近づいてきました。なお、このパンフレットでは、エンジンが縦型機関の6L13ASとなっています。このエンジンは国鉄キハ37が採用した初の直噴式エンジンと同じで、三陸鉄道キハ36形、神岡鉄道KM-100,150形にも採用されたものですが、次に登場する由利高原鉄道YR-1000形以降は横型機関の6H13ASとなり、これがNDCの主流となります。

NDCは、鉄道車両ベースなのに、車両価格も、重量も、バスベースである富士重工製の同クラスのLE-Carに迫る勢いでダウンサイジングが図られました。

 ところで、このパンフレットが作成された時点では、三陸鉄道36形、神岡鉄道KM-100,150形が導入された頃と思われますが、いずれも、完全なNDC仕様ではありません。ようするに三陸鉄道キハ36形、神岡鉄道KM-100,150形はNDCではないと言うことです。新潟鐵工は三陸鉄道36形、神岡鉄道-100,150形をベースにこれからNDCなるブランドを立ち上げようとしていたものと思われます。

それでは、純粋なNDCはいつから製品化されたのか?それは、1985年製の由利高原鉄道YR-1000形からです。しかし、YR-1000形もNDCの決定版とはならず、以降、南阿蘇MT-2000形、会津鉄道AT-100,150,200形へと展開して行きます。

さて、今回はここまでです。次回は実車の導入順序を追ってNDCの変遷を辿ってみたいと思います。この先ちょっと話が長くなりそうですが、この話題に興味のない方は、悪しからずごめんなさい。