ローカル線の回顧録

1970年代後半から2000年頃までのローカル線の記録

第750話 1993年熊本:LRTを夢見る

1990年代になり、ようやく九州方面へ出向く機会が増えましたが、時すでに遅く、いずこも古い車両はなくなってしまった後でした。悔やまれるのは廃止となった鹿児島交通薩南線ですが、もう一カ所、熊本電鉄の旧型電車たちでした。

今回は、1993年に初めて訪問した熊本電鉄の様子をお伝えします。

 

1.北熊本駅 (北熊本:1993年9月)

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 熊本電鉄は、かつて菊池まで路線がありましたが、1986年に御代志~菊池間が廃止されて、ほぼ同時期に雑多な旧型車両を淘汰し、静岡鉄道、東急電鉄から中古車を購入して車両の体質改善をはかりました。

本当は、旧型車がいる時に訪問したかったのですが、東京から熊本は遠く、さらに旧型車が淘汰されたあとは魅力もなくなり、ますます出向くきっかけがありませんでした。

 

2.北熊本車庫 (北熊本:1993年9月)

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  1993年の訪問当時は、路線縮小から7年が経ち落ち着いた頃でしたが、熊本電鉄の最大のネックは、今も同様に熊本市内の起点でした。起点は2カ所あり、一方は市街地の外れである藤崎宮前と、もう一方は北熊本から分岐する上熊本線の上熊本です。

例えば、熊本電鉄の沿線から熊本駅へ行く場合は、上熊本からJRに乗り換えればすぐです。しかし繁華街の辛島町あたりへ行く場合は、上熊本から市電に乗り換えるよりも藤崎宮前からバスに乗り換えた方が、北熊本での乗り換えがなく、時間も早い様です。 いずれにせよ直接行けないので不便極まりありません。ちなみに廃止となった菊池へは、繁華街の辛島町のバスセンターからバスが頻繁に出ており、これが御代志~菊池間の廃止を誘発した様です。熊本はバス大国です。

 

3.藤崎宮前駅 (藤崎宮前:1993年9月)

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しかし、熊本電鉄はなぜこんな不便な藤崎宮前を起点にしたのか?

調べてみると、やはり理由がありました。昔は藤崎宮前から市電が接続していました。その頃は、市電に接続していればなんとかなっていた時代で、それがローカル私鉄のステータスでした。ところが市電が廃止されてしまい、藤崎宮前陸の孤島になってしまいました。繁華街まで1.5km程です。わずか1.5km、されど1.5kmです。

 

4.モハ5105 (上熊本:1993年9月)

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現在熊本電鉄は、市電に乗り入れて路線の活性化を図る、LRT化を夢見ています。たしかにそれが実現すれば新たな道が開けそうですが、そう容易なことではありません。まず、藤崎宮から既設の市電までの路線をどうするのか?そしてなにより、熊本電鉄と市電は軌間が異なります。かつては、上熊本経由で国鉄との貨物輸送を行っていたので狭軌であることが必須でしたが、もう貨物輸送はなくなったので、路線規模を考えると熊本電鉄側を標準軌化するか、市電に乗り入れる区間を短くして3線軌道にするか・・・。まあ、こんな検討をし始めると実現まで10年、20年はかかりますし、そのうち検討自体が自然消滅するか、最悪、経済状況が変わって鉄道自体が不要になってしまう可能性もなきにしもあらず。

 

5.モハ5044(モハ5106予定車) (北熊本:1993年9月)

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 さて、車両の話題ですが、この頃北熊本車庫には意味深な車両が2両いました。

まずはモハ5044です。この車両は言わずと知れた元東急の青ガエルです。熊本電鉄は1981年に東急電鉄から青ガエルMc2連のモハ5000形2両と1986年にMc車を両運化したモハ5100形4両を導入しましたが、先に導入したMc2連(モハ5043+モハ5044)を分離両運化し、モハ5100形に編入しました。ところが、竣工したのはモハ5043を両運化したモハ5105だけで、モハ5106になるはずのモハ5044はご覧の様に改造途中で挫折してしまったのか、こんな状態でした。

 

6.クハ504 (北熊本:1993年9月)

f:id:kk-kiyo:20210213153300j:plainそして、もう1両薄っすらと504の番号が見えますが、これは静岡鉄道からやって来た2連の片割れであるクハ504です。熊本電鉄は元静岡鉄道モハ100形Mc2連をモハ500形として3編成導入しましたが、そのうちモハ500形偶数車をクハ化しMT2連化しました。その後クハ504が事故に遭い、復旧を挫折したのか、相棒のモハ503が両運化されてモハ601となりました。

結局、モハ5106になるはずのモハ5044とクハ504の2両はその後もこのままで休車扱いとされて、いつのまにかいなくなりました。