ローカル線の回顧録

1970年代後半から2000年頃までのローカル線の記録

第284話 1988年日鉄尻屋:断崖の鉱山軌道

青森県下北半島と言えば、まず思い浮かぶのは恐山ですが、その下北半島の太平洋側には、尻屋崎という断崖絶壁の名所があります。この尻屋崎は寒立馬(かんだちめ)という冬場に風雪に耐える馬の放牧が有名ですが、人も住んでいない断崖絶壁のこの地に大規模な石灰石の採掘場とセメント工場があり、1994年まで石灰石の採掘場と選鉱場間にエンドレスループの鉱石列車が走っていました。

今回は1988年のGWに訪問した、日鉄鉱業尻屋鉱業所運鉱線の話題です。

 

1.尻屋崎地形図(引用:国土地理院1/50000地形図「尻屋崎」昭和48年編集)  f:id:kk-kiyo:20190810083828j:plain

先ずは場所から説明しますと、 上図に示されたように、軌道は下北半島尻屋崎のすぐ近くの尻屋崎港に面した一帯の段丘上に敷設されていました。
この地図だけでは、いったいどこなのかさっぱり分からないと思いますが、青森県の地図で下北半島の一番右端の先端部分です。

この地図の日鉄鉱業と記された場所が軌道のループになっており、ここに選鉱場があります。軌道の反対側は坑道となって桑畑山に潜っており、地図では判りませんが、坑道がループになっていました。(拡大して参照下さい。)          

 

2.№3積車列車 (鉱業所付近:1988年5月)

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 前日の夜に上野駅から夜行急行の八甲田81号に乗り、朝8時前に野辺地に着きました。この日はすぐに野辺地から大湊線に乗って、下北へ向かい、下北で下北交通気動車に乗り換え、更に田名部で下北交通のバスに乗り換えて尻屋に向かいました。とにかく遠いところです。

正直、日鉄鉱業尻屋鉱業所がどんなところなのか、どこでバスを降りればよいのかも分からず向かいました。頼りは鉱山軌道の踏切です。50分ほどバスに乗車して太平洋が見えると程なく小さな踏切を渡り、この辺りだろとバスの停車釦を押しました。着いたのは日鉄鉱業尻屋鉱業所の目の前でした。

バスを降りると、軌道も目の前を通っており、早速鉱石列車がやって来ました。
慌てて撮影をし、場所を把握するため、持っていた国土地理院の地形図を見ていると、また列車がやって来ました。かなりの高頻度運行です。

 

3.№3空車列車 (選鉱場付近:1988年5月)

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 道路を挟んで鉱業所の反対側は鉱石の集積場です。真っ白い石灰石が山積みされており、その周りを単線軌道がループ状に敷かれていました。

 

4.№3空車列車 (選鉱場付近:1988年5月)

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単線ループの海側には選鉱場がありました。

 左側通行の列車は右回りにループを進み、その途中にあるダンプ場で走行しながら鉱石を降ろします。鉱石を降ろした空車列車はそのまま鉱山に向かいます。

エンドレスループの総延長は約5.6kmですが、そのうち地上に出ているのは約3km程で坑口から選鉱場までは約1.5km程です。列車はこのエンドレスループを約45分程で1周していました。

 

5.№2積車列車 (鉱業所付近:1988年5月)

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 鉱石列車は4列車運行されていました。機関車は背の低い鉱山用の15tディーゼル機が6両在籍しており、適宜交代しながら運行されていました。

エンドレスループの1周の所要時間は約45分なので、4列車運行と言うことは、ほぼ11分強の運転間隔となり、複線区間では5~6分間隔でどちらかから列車がやって来ることになります。 

6.№2空車列車 (鉱業所付近:1988年5月)

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 列車は選鉱場の単線ループから複線区間に入り、鉱山まで約1km程断崖の上を走ります。写真は、ループから複線区間に入ったあたりです。後方の建物が選鉱場の施設です。選鉱された鉱石はベルトコンベアで海上の輸送船に積み込まれます。

 

7.№2空車列車 (鉱業所付近:1988年5月)

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 軌道は海抜の高いところを通っていますが、崖の下には尻屋漁港がありました。

 

8.№1積車列車 (鉱業所付近:1988年5月)

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 この日は穏やかな日でしたが、この辺りは津軽海峡に面しており冬場は風雪地帯です。

少し先の尻屋崎が観光名所で公共機関のバスが年間を通して運行されていますが、さすがに冬は風雪の台地となるので行く気がしませんでした。